サステナブルな社会の実現に向け、社会イノベーション事業をグローバルに展開する日立製作所。多彩な事業を牽引する自律したリーダーを輩出するため、ジョブ型人財マネジメントに取り組む同グループは、大規模なリスキルや「学び続ける文化」の醸成に取り組んでいます。それぞれの社員にふさわしい「学びの機会」を提供するため、LXP(学習体験プラットフォーム)の中のコンテンツの一つとして、goFLUENTの語学学習プログラムを導入しました。導入の狙いについて、株式会社 日立アカデミー 取締役社長の迫田 雷蔵氏にうかがいました。
 
<この記事のポイント>
人財育成は経営マターであると認識することが重要:人財に投資していない企業は今後選ばれなくなってしまう
グローバル化に対応して語学学習コンテンツを採用:すべての社員が、学びたいときに語学を学べる環境を提供する
LXP(学習体験プラットフォーム)の導入でコンテンツを最適化:公平な学習経験を与えるには、テクノロジーの活用が不可欠

事業のグローバル化に対応して、ジョブ型人財マネジメントを採用

迫田氏:日立製作所は1910年、鉱山の機械修理工場として茨城県日立市で創業し、今年で112年になります。かつては多数の事業会社を傘下に置くコングロマリットでしたが、2000年代に大幅な事業再編を行い、現在は「社会イノベーション事業」をグローバルに展開しています。売上収益や連結従業員数も、現在は約6割が海外です。

大野:時代の変化に応えて「社会イノベーション事業」という注力分野を定めたわけですが、人財に求められるスキルも、時代とともに変わっているのではないでしょうか。

迫田氏:社会イノベーション事業とは、ひと言で言えば、「デジタルの力で環境価値、社会価値、経済価値を高めていく事業」です。それをグローバルに展開しているわけですから、求められるのは、デジタル化やグローバル化に柔軟に対応できるスキルです。当社の人財育成は、この方向性に沿ったリスキルに重点を置いています。

神成:ジョブ型人財マネジメントを採用しておられるそうですが、これも事業のグローバル化に対応するためでしょうか。

迫田氏:はい。海外ではジョブ型の人財マネジメントが一般的であり、新卒一括採用や終身雇用を前提とするメンバーシップ型人財マネジメントは日本固有のものです。グローバルに事業を展開するには、我々(日本)自身が変わらなければならないと考え、海外に合わせる形でジョブ型に転換しました。

個人がキャリアに責任を持ち、企業が支援する新たな関係性の構築

神成:日立製作所が目指しているジョブ型人財マネジメントとは、どのようなものですか。

迫田氏:最終的に実現したいのは、自律した「人財」「組織」「文化」をつくり、日立という会社が社会イノベーション事業のグローバルリーダーになることです。

そのためには、組織だけでなく、社員一人ひとりが「個人」として成長することが不可欠です。会社から職務を与えられるのを待つのではなく、個人が自らのキャリアについて考え、それを手に入れるために行動するような文化を育んでいかなければなりません。

会社は、どのようなキャリアが手に入れられるのか?そのために必要なスキルは何か?どのような学習や訓練の機会が用意されているのか?といったことを提示し、個人は、自らがやりたい仕事、保有するスキル、求めるキャリアプランを示す。これによって、継続的に学びのエンゲージメントを高めていきます。年齢や性別といった属性によらず、本人の意欲や能力に応じた「適所適財」の配置が実現することは、学び続ける人財・文化を創造し、最終的には組織の成長に結び付くと考えています。「適材適所」ではなく、「適所=ポジション」を決めて、そこをキーとして会社と社員双方が対等なパートナーとして関わっていく事が重要です。

大野:社員一人ひとりが自らのキャリアに責任を持ち、会社はそれを支援していくという関係性ですね。少し意地悪な質問ですが、自分のキャリアに責任を持ちたくない社員はどうなってしまうのでしょうか。

迫田氏:成長のチャンスをつかめなくなるでしょうね。逆に、自分のスキルを高めて、新しいことにチャレンジしていこうとする人には、大きなチャンスが広がるはずです。

全社員に対し公平な学習機会を与えるため、LXP (Degreed) を導入

大野:リスキルのためにどのような施策を実施しているのか、より詳しく教えていただけますか。

迫田氏:「本人の背中を押す」「支援できる上長を育成する」「目指すジョブにつながるカフェテリア型の学習コンテンツを提供する」「学びの習慣化を促進するコンシェルジュとして、LXPを活用する」という4つの施策を実施しています。

まず、それぞれの社員が自分のキャリアをしっかり考え、言語化できるようにすることで本人の背中を押し、上長が適切なアドバイスを提供できる環境を整えます。そのうえで、必要な学習コンテンツを網羅し、どのコンテンツを選び、どのような勉強をすればいいのかを教えてくれるツールとして、LXPを活用してもらいます。学びは継続させることが大事ですから、LXPは学習の習慣化を促す機能も備えています。

大野:LXPは、ジョブ型の人財育成に欠かせないツールだとお考えのようですね。

迫田氏:かつてのように人財育成をある程度マスで管理できていた時代は、すべての社員に同じ学習プログラムを提供するだけで済み、社員も「何を学んだらいいのか?」と悩むことはありませんでした。

しかし、ジョブ型の世界では、社員はそれぞれの目標に向かって進んでいかなければなりません。目指すキャリアが社員ごとに異なれば、自ずと一人ひとりにカスタマイズされた育成プランが必要になってきます。それを人手で処理するのは、日立製作所のように3万人も社員がいる会社ではとても間に合いません。

そこで、AIが社員ごとの希望や能力・スキル、学習履歴を分析し、最適な学習プログラムや学習方法を推奨してくれるLXPを活用することにしたのです。

日立グループ全社員を視野に、goFLUENTの語学学習プログラムを採用

大野:LXPで学べるコンテンツの一つとして、goFLUENTが提供する語学学習プログラムをご採用いただいています。どのような目的で導入されたのでしょうか。

迫田氏:かつては、海外に赴任したり、海外との取引を担当したりするひと握りの社員だけに語学教育を行っていましたが、グローバル化が進む中で、日本で働く外国人社員が増え、英語による会議も日常化するなど、語学は当たり前のスキルになってきました。

海外拠点とチームを組んでプロジェクトを推進する機会も増えており、日本にいるからと言って、「英語は関係ない」というわけにはいかなくなっています。そうした状況を考えると、社員が学びたいときに語学を学べる環境は絶対に必要だろうということで、語学学習プログラムを導入することにしました。

神成:語学学習プログラムは色々ありますが、その中からgoFLUENTを選んだ理由は何でしょうか。

迫田氏:当初は日立製作所の3万人の社員を対象としていますが、最終的には日立グループ全体でグローバルにプログラムを提供したいと考えています。そのためには、グローバルにプログラムを提供している事業者が望ましいと考えて、goFLUENTを選びました。

すでに一部のグループ会社で導入実績があり、我々も1年ほどトライアルをして、十分な効果が確認できたことも選定の決め手となりました。

神成:現在、ニュース記事やビデオなどを視聴するeラーニングと、1on1レッスンやグローバル会話クラス、ライティングレッスンなどのライブトレーニングを組み合わせたブレンド型プログラムを導入いただき、日立製作所と日立グループ、日立アカデミーで累計800名が英語研修を受講されています。今後のgoFLUENT活用についても教えていただけますか?

迫田氏:今後は、英語以外の語学コンテンツも活用していきたいですね。例えば、日本で働く外国人社員が日々の生活で困らないように日本語学習のプログラムを提供することも検討しています。
 また、goFLUENTは語学学習を習慣化させるための、さまざまなノウハウを持っているとうかがっています。当社が目指す「学び続ける組織」づくりのために、ぜひノウハウを共有していただきたいですね。

大野:具体的な支援として、当社では導入に当たってのキックオフウェビナーを実施しています。goFLUENTの操作説明だけではなく、学習者のマインドセットを行うことが特長です。なぜ語学学習をするのか、自分自身でまず考え、イメージしてもらうことで動機が明確化し、学習のモチベーションにつながります。

神成:加えて、経営層からのメッセージも重要です。会社から何を期待されているのか、なぜ自分が語学学習をスタートするのか、学習者に腹落ちさせることが重要だと思います。

大野:とはいえ、外発的な動機付けも多少は必要になると思います。例えば、スタディチャレンジのようなイベントを企画し、個人、グループ、ビジネスユニットなどの単位で競い合う。それぞれの頑張り度合いを「見える化」することも、学習の後押しになります。

人財育成は経営マターであると、経営者が認識することが重要

大野:人財育成については、多くの日本企業が悩んでいることと思います。何かアドバイスがあればお願いします。

迫田氏:人を育てるのは、人事部だけの仕事ではありません。人財育成を考えるうえで大切なのは、経営者が、重要な「経営マター」であると認識することです。

かつては、「教育はコストである」と考えがちでしたが、人を育てるのは、会社にとって重要な「投資」です。これまでの日本企業の多くは、「人を大切にする」と言いながら、人への投資が不足していたのではないでしょうか。成長のために欠かせない「経営マター」として捉え直し、人財育成に積極投資する姿勢が求められているのではないかと思います。

大野:ありがとうございます。最後に迫田社長のこれからの目標について聞かせてください。

迫田氏:「学び続ける」という文化を根付かせるのは、非常に大きな挑戦です。それを日立製作所の3万人だけでなく、グローバルの日立グループ全体に広げていくのは容易なことではありません。おそらく相当な時間を要すると思いますが、一歩ずつ、着実に取り組んでいきます。

<スピーカープロフィール>

株式会社日立アカデミー 取締役社長 迫田 雷蔵氏

1983年、慶応義塾大学法学部卒業し、日立製作所入社。一貫して人事・総務関係の業務を担当。電力、デジタルメディア、情報部門の人事業務を担当後、2003年から本社で処遇制度改革を推進。2005~09年、米国に本社があるHitachi Data SystemsでHR部門Vice President。その後、本社グローバルタレントマネジメント部長、中国アジア人財本部長、人事勤労本部長等を経て、2017年株式会社日立総合経営研修所取締役社長 就任。2019年4月より現職。

goFLUENT株式会社 ゼネラルマネジャー 大野 孝司

goFLUENT日本法人の統括責任者。食品、IT業界を経た後、2005年に法人向けeラーニング・ベンチャーを共同設立し英語教育業界へ。企業のみならず大学や出版社やeラーニング企業など、業界で豊富な人脈を有する。2013年の入社以来100社以上の企業を担当し、人財育成における課題の解決に尽力してきた。

goFLUENT株式会社 セールスマネジャー 神成 紀州

企業・大学のグローバル人財育成において、15年以上に渡り人財開発担当者への教育コンサルタントとして従事。アルク教育社(現アルク)、GlobalEnglish社、Cooori社で大手企業/グローバル企業80社以上の人財育成を支援し、業務効率向上や社内英語コミュニケーションの活性化などを通して企業に貢献。2020年よりgoFLUENTに参画し、次世代リーダー育成、グローバル要員の教育など、企業の語学教育を加速させることに意欲を燃やしている。